2013年8月8日 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定及び日米並行協議に関する質問主意書 質問主意書 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定(以下「TPP」という。)及び日米並行協議に関して、以下のとおり質問する。 一 日米間の協議結果の確認に関するマランティス米国通商代表代行発返書(平成二十五年四月十二日)について、「TPP交渉と並行して、保険、透明性/貿易円滑化、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、急送便及び衛生植物検疫措置の分野における複数の鍵となる非関税措置に取り組むことを決定しました」とあるが、具体的には、どのような非関税措置について議論をしたのか。それぞれの分野にはどのような非関税障壁があると米国は主張しているのか、示されたい。  また、「非関税措置について達成される成果が、具体的かつ意味のあるものとなること、また、これらの成果が、法的拘束力を有する協定」等を通じて実施されるとしているが、法的拘束力の中身はどのようなものなのか、示されたい。 二 日米間の協議結果の確認に関する佐々江駐米大使発書簡(平成二十五年四月十二日)について、「二○一一年十一月十二日にTPP首脳によって表明された「TPPの輪郭」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認しました。」と表明されている「高い水準の協定」とは、具体的に何を指すのか。 三 我が国のTPP交渉参加に関するマランティス米国通商代表代行発米国下院議長・上院仮議長宛書簡(平成二十五年四月二十五日)について、「日本との二国間協議においては、TPP交渉参加国が追求している高い水準で包括的な目標を追求することについての日本の用意に焦点を当てた。我々はまた、交渉が進んだ段階に達しており、TPP各国は交渉を本年妥結させることを目指していることから、日本の参加が交渉を遅らせることがないことを確保することについても焦点を当てた。これらに対し、また、これらを完全に認識した上で、日本は、交渉に前向きかつ建設的に参加することを確認した。」とあるが、この「完全に認識した」とは、誰が、いつ、どのような形で、具体的にどのような交渉内容を「完全に認識した」のか。  また、「日本はまた、全ての物品(農産品と工業製品の双方)を交渉の対象とすること、及び他の交渉参加国とともに高い水準で包括的な協定を本年達成していくことを確認した。」とあるが、農林水産分野の重要五品目などの「聖域」もこの時点で交渉の対象にすると同意していたのか。 四 本年六月十六日付けの産経新聞が「米国が難色を示していた遺伝子組み換え食品の表示義務を受け入れる方針であることが分かった。」と報じているが、これは事実か。事実とすれば、これは日米二国間だけの合意なのか。あるいは、TPP交渉参加国全てに対して米国が受け入れた合意なのか、明らかにされたい。 五 米自動車政策会議のマット・ブラント会長が「為替操作を禁止する強力で強制力を持った規則がTPPに盛り込まれる必要がある」と発言し、TPPに為替操作に対する新たな規定を追加するよう米国下院議員二百二十六名が署名してオバマ大統領へ書簡を送った。フロマンUSTR代表も「為替操作は重要な懸念事項」と発言しているが、為替操作に対する規定の議論が日米並行協議の中で出ているのか。為替操作に対する規定が盛り込まれれば、金融政策に対する内政干渉となり大問題であると思うが、この点について、政府の見解を明らかにされたい。 六 本年四月十九日、米国シンクタンク戦略国際問題研究所で開催された講演会において、麻生太郎副総理が、「水道というものは、世界中ほとんどの国では、プライベートの会社が水道を運営しているが、日本では自治省以外ではこの水道を扱うことはできません。しかし水道の料金を回収する九十九・九九パーセントというようなシステムを持っている国は、日本の水道会社以外にありませんけれども、この水道は全て国営若しくは市営・町営でできていて、こういったものを全て民営化します。」と水道民営化に言及している。 1 TPPでは政府調達の分野も含まれており、外国企業の参入を拒めなくなるはずである。水道のようなライフラインを外国企業に買収されてしまえば国家安全保障に関わる問題となる。この点について、政府の見解を明らかにされたい。 2 米国には国家安全保障を脅かす外国企業の活動を制限できるエクソン・フロリオ条項があるが、日本版エクソン・フロリオ条項のようなものの導入は検討していないのか、政府の見解を明らかにされたい。 3 愛媛県松山市において、ヴェオリア・ウォーター・ジャパン株式会社への水道事業の業務委託が始まっている。松山市は業務委託によって水道料金が値上がりすることはないとホームページで公言しているが、同ホームページによれば、平成二十五年度から平成二十八年度にかけて水道料金の大幅値上げが計画されている。ヴェオリア・ウォーター社が参入したことと、この料金値上げとの間に本当に関連性はないのか、政府の見解を明らかにされたい。 右質問する。 答弁書  参議院議員山本太郎君提出環太平洋パートナーシップ(TPP)協定及び日米並行協議に関する質問に対する答弁書一について  我が国の環太平洋パートナーシップ(以下「TPP」という。)協定交渉参加に関する日米間の協議の結果、日米間で取り組むこととなった非関税措置は、当該結果を確認する佐々江米国駐箚特命全権大使発さつマランティス米国通商代表代行宛ての本年四月十二日付けの書簡(以下「日本側書簡」という。)及び同通商代表代行発同大使宛ての同日付けの返書(以下「米国側返書」という。)に明記されている九つの分野に係るものであるが、米国の主張等の詳細については、相手国との関係もあり、お答えを差し控えたい。また、お尋ねの「法的拘束力の中身」については、その意味するところが必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難である。  二について御指摘の「TPPの輪郭」が日本側書簡及び米国側返書にある御指摘の「包括的で高い水準の協定」の内容を示していると認識している。  三について米国政府の書簡の内容について、我が国としてお答えする立場にない。また、お尋ねの「この時点で」の意味するところが必ずしも明らかではないが、我が国のTPP協定交渉参加のための日米間の協議で合意した事項については、日本側書簡及び米国側返書に記されているとおりであり、それ以上の詳細については、お答えすることは困難である。  四についてお尋ねの報道については承知しているが、交渉に係る個別具体的な内容については、お答えを差し控えたい。  五について日米両国政府がTPP協定交渉と並行して行う自動車貿易に関する交渉は、日本側書簡の附属文書である「自動車貿易TOR」に従って行われているが、それ以上の詳細についてはお答えを差し控えたい。いずれにしても、我が国として国益を最大限実現するために全力を尽くす考えである。  六の1についてお尋ねの意味するところが必ずしも明らかではないが、交渉に係る個別具体的な内容については、お答えを差し控えたい。いずれにしても、我が国として国益を最大限実現するために全力を尽くす考えである。六の2についてお尋ねの趣旨が必ずしも明らかではなく、また、御指摘の「日本版エクソン・フロリオ条項」が具体的にいかなるものを指すのか必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難である。六の3について水道料金は、水道法(昭和三十二年法律第百七十七号)の規定に従い適切に定められているものであるが、その設定には様々な要因が影響するものであることから、御指摘の「関連性」について、政府としては、一概にお答えすることは困難である。 質問主意書に対する解説   安部芳裕 米国政府は日本政府へ「TPPの交渉に参加したいなら手土産を持ってこい」と要求し続けた。その手土産とは「牛肉」「かんぽ」「自動車」の規制緩和(非関税障壁の撤廃)である。この三分野の規制緩和、またその他の非関税障壁については引き続き協議を続けるという米国政府の要求を飲んだことにより、日本政府はTPP交渉会合に参加することができた。   質問一にある「日米間の協議結果の確認に関するマランティス米国通商代表代行発返書」は、その事前協議を終えたときに交わした合意文書であり、外務省のホームページにある。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/kyogi_2013_04_03.pdf   質問二にある「日米間の協議結果の確認に関する佐々江駐米大使発書簡」は、事前協議を終えたときに交わした合意文書であり、順番としては日本が「日米間の協議結果の確認に関する佐々江駐米大使発書簡」を米国へ送り、その返信として「日米間の協議結果の確認に関するマランティス米国通商代表代行発返書」を日本に送ったものである。この佐々江大使発の米国宛て書簡も外務省のホームページにある。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/kyogi_2013_04_01.pdf   日本政府は、本年七月二十三日、マレーシアで開かれたTPP交渉会合に参加するに当たり、鶴岡公二首席交渉官が秘密保持契約に署名した。日本政府は、交渉参加前は「まだ交渉に参加していないから内容が分からない」としてきたが、交渉参加後は「秘密保持義務があるので話せない」という。これでは、国民は判断の材料すら持てない。   そこで、事前協議で合意した九つの分野の非関税措置について、具体的にどのような協議をしたのか、米国は何を要求しているのか、その内容を尋ねた。しかし、その返答は予想通り「詳細については、相手国との関係もあり、お答えを差し控えたい」という秘密主義であった。   政府が守秘義務を盾に情報公開を拒んでいるので、代わりに答えるならば、米国の要求は、USTRが毎年米国議会に提出している外国貿易障壁報告書を見れば、その要求はおおよそわかる。その要約版は外務省が翻訳して、ホームページに入っている。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp20130404.pdf   さらに合意文書の中にある「法的拘束力を有する協定」という文言が具体的に何を指すかを尋ねたところ、「法的拘束力の中身については、その意味するところが必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難である」との答弁。この合意文書は日本政府が作成したものであるにも関わらず、「その意味するところが必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難である」とはどういうことなのか?意味不明の文言を合意文書に入れるとは、あり得ない。質問者を愚弄しているとしか思えない。   質問二についても質問者を愚弄しているとしか思えない答弁である。これも政府に代わって答えてみよう。包括的とは、すべての物品・サービスが対象となるという意味であろう。高い水準の協定とは、関税撤廃の割合を示していると思われる。日本の貿易品目の関税上の分類は9018品目である。政府が「聖域」としている米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の5分野は586品目。仮にこの586品目をすべて守るとすれば自由化率は93.5%となる。米国が締結してきた自由貿易協定(FTA)における実績値は96〜99%の自由化率であり、当初TPPは自由化率99%を目指してきた。TPPは原則的に関税撤廃であるが、各国にはセンシティブ品目があるので、おそらく98〜99%程度の自由化率を求められるであろう。   質問三にある「我が国のTPP交渉参加に関するマランティス米国通商代表代行発米国下院議長・上院仮議長宛書簡」は、事前協議が終わったことをマランティス米国通商代表代行が米国下院議長に通知する書簡であり、これも外務省のホームページにある。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/sanka_2013_0425_j.pdf   答弁は「我が国としてお答えする立場にない」「お答えすることは困難である」と木で鼻を括ったようなものである。 ところで、この書簡に米国の目的が明確に書いてある。「米国はTPP協定を,世界で最も速く成長している地域とともに米国の経済的利益を促進させるための手段として,また,アジア太平洋地域にわたる経済統合の潜在的基盤であると見なしている。TPP協定は,我々の継続的な経済回復及び米国における給料が高く,質の高い雇用の創出及び維持のために不可欠である,米国の輸出を拡大する手段としての役割も果たすであろう。日本のTPP交渉への参加は,それらの目標及び我々の求める高水準な,21世紀型の地域貿易協定の発展に対する有意義な貢献となるであろう。」   あくまでTPPはリーマンショックでダメージを受けた米国経済の利益のためにあるのであって、日本は米国の利益に貢献する存在としか見なされていないのである。   質問四についても「お答えを差し控えたい」と相変わらずである。もしかして本当に米国は遺伝子組み換え食品の表示義務の撤廃は要求して来ないのかもしれない。しかし、米国はモンサントを始めとする遺伝子組み換え企業の力が強い。実際、米国では「遺伝子組み換えではない」との表示はできない。米国では科学的に危険を証明できなければ、販売を禁止できないのだ。一時的には表示義務の撤廃は要求しないかもしれないが、TPP交渉はネガティブリスト方式である。つまり原則的に非関税障壁は撤廃であり、交渉のテーブルに乗せなければ撤廃なのだ。TPP発効後に表示義務の撤廃を要求してくる可能性は十分にある。   質問五について。これは大変重要な問題である。米国から見て為替操作とは、日本からすれば金融政策なのだ。金融政策を禁じられれば、もう独立国とは言えない。そんな重要な問題であっても、何も回答しない。国益とはいったい何か?一部の大企業、多国籍企業が利益をあげても、それは株主の配当や内部留保、海外投資に向けられ、国民の生活は楽にはならない。逆に苦しくなるばかりではないか。 ちなみに「自動車貿易TOR」も外務省のホームページにある。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/kyogi_2013_04_05.pdf  TORとは「交渉の枠組み」であるが、ここに毒素条項と呼ばれるISD条項やスナップバック条項が入っている。   質問六は、麻生副総理が米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)で「水道をすべて民営化する」と宣言したことに関するもの。ちなみにこのCSISは、マイケル・グリーンやリチャード・アーミテージなど、いわゆるジャパン・ハンドラー(日本を操る人)と呼ばれる人たちの巣窟であり、日本の政界に強い影響力を持っている。1   TPPでは外国企業の参入を拒めない。水道を外資に買収されてしまえば危険である。ボリビアでは多国籍企業が水道事業を独占し、水道料金が三倍になり、住民が雨水を飲むことさえ禁じる条項があったのだ。この答弁には、そんな危機感がまったく感じられない。2   日本にも今でも外資規制がある。国家安全保障を脅かす外国企業の活動を制限するのは決して特別なことではない。ただ、TPPでは外資規制も突破されてしまうだろう。そういう危機感がまったく感じられない。3 愛媛県松山市のホームページ。水道事業の経営は、これまでどおり松山市公営企業局が責任を持って行いますので、委託によって水道料金が値上がりすることはありません。 http://www.city.matsuyama.ehime.jp/kurashi/kurashi/josuido/info/suidoujigyou.html 水道基本料金(平成25年度〜平成28年度) http://www.city.matsuyama.ehime.jp/kurashi/kurashi/josuido/tetuzuki/ryoukin/ryokin_ebara.html   以上、この質問主意書を提出してわかったことは、政府は国民に対し何ひとつまともに説明する気はないということが良くわかった。